7月1日に開催する第1回「くらラボ!」では、音楽による街づくり事業「おとまち」を展開しているヤマハミュージックジャパンの佐藤雅樹事業開発部長に講演をしてもらいます。それに先立ち、「おとまち」を始めた経緯などを佐藤さんにお聞きしました。
従来のモノを売るというプッシュ型のビジネスからプル型の新しいビジネスをつくりたいと思ったからです。会社の中にノウハウやリソースを蓄積して、それを売りにして、お客様から相談がくるようなビジネスを作っていきたいと考えたのです。
以前リビング事業を担当していました。その仕事を通して行政や設計事務所との関係があったこともあり、新しいビジネスを考えるにあたって、「街づくり」に可能性があるのではないかと考えました。「街づくり」という切り口に対して、音楽で何かできないか?音楽に対するニーズはないかと議論をしたのです。
— 始めるにあたり苦労したことはなんですか?
メーカーなので社員がどうしてもモノづくり志向になっていて、コンサルティングを仕事にするにはどうしたら良いのかノウハウがありません。ソフトは物販のための「サービス」として提供してしまうのです。そこで、つてを頼ってシンクタンクにアドバイスをしてもらうことにしました。シンクタンクは音楽による街づくりに可能性を見いだし、シンクタンク内に「おとまちプロジェクト」をつくってくれました。そして「サービス」ではなくビジネスとしての音楽による街づくり事業の模索が始まったのです。ちょうどそのころから「おとまち」という言葉を使い始めたと思います。NPOとの連携も重要なポイントとなっています。
— ビジネスとして進めるための課題は何でしたか?
街づくりに音楽を提案するために、もともと音楽そのものが持っている価値を一回洗い出さなければダメだよねということになりました。音楽にどれだけ力があるのか?どれだけ価値があるのか?その価値ってなんだろうかと改めて議論しました。そのなかで、音楽の持つ人と人をつなげる力に注目しました。コミュニティのために音楽が活躍できる。音楽がコミュニティ育成の道具として使えるのではないかと。
しかし、音楽が素晴らしいですよと言っていると「それではヤマハさん、やってください」と言うことになってしまいます。また社員も「価値はわかるんですが今までサービスとしてやってきたじゃないですか。どうして見積もりを出すのですか?」と言いだすのです。
— では、どうやってサービスからビジネスに変えたのですか?
音楽を主語にするのではなく、コミュニティ形成を主語にしてお客さまに提案するのです。今まではヤマハが全部やってきた。ヤマハが企画して、運営して、実施してきた。しかしヤマハが引き上げると、コミュニティには何も残らない。
そこで実行委員会形式でコミュニティをつくり、コミュニティを中心に企画を進め実行していくことを提案しました。ヤマハはアドバイザーとして入ってコミュニティを育成していきます。コミュニティができればヤマハが抜けても、資産として残るのです。
時代的にも地域創生とか、地域活性化に注目が高まり、若い人たちの意識も変わってきていて、こうした提案には投資する価値を認めてもらえるようになったのです。
— 具体的にはどのように進めるのですか?
最初の1年目はプレとします。そこはヤマハがやってみせる。見せることで実行委員会のメンバーにノウハウを伝授していきます。翌年からは実行委員会が中心になって企画・運営します。ヤマハはアドバイザーとして裏方に回ります。するとやっていくことそのものがコミュニティの中にリソースとして積みあがっていきます。2年目、3年目と続けることにより、コミュニティにリソースが溜まっていき、外に逃げていかなくなります。そうすれば、ヤマハが抜けても自分たちで回せるようになっていきます。これができあがると、地域の価値として資産となっていきます。地域のイベントや祭りなどで活躍できるようになります。
— 行政だけでなく企業へも提案をしていますね?
若い人たちが就職する企業を選ぶ基準に、「その企業が社会貢献をやっているか」ということが大きなポイントになってきています。そういう企業に入社して自分も社会のために活躍できているという実感を持ちたがっているわけです。それはやはり3.11の震災とソーシャルネットワークが影響していると思います。企業にとって従来のようなCSRでは不十分で、ビジネスの一環して社会貢献をすることが必要になってきているわけです。「おとまち」では、そうしたニーズに対しても音楽を切り口にした提案をしています。