2016年10月5日に開催した勉強会「くらラボ!ゼミ」第2回「オウンドメディアで地域を元気にする!」のレポートの2回目です。(レポート1回目はこちら)
後半のネイティブ株式会社倉重宜弘社長のプレゼンテーション「デジタル時代に地域の魅力を世界に広げる7つのポイント」の要点を報告します。
ネイティブ株式会社について
倉重さんはネットイヤーグループで2012年4月から地域振興を目的とした新規事業に取り組み、北海道を始めとして各地で地域メディア立ち上げを経験され、話題を集めてきました。現在も、沖縄では沖縄セルラー電話の観光の新規事業「沖縄CLIP」のサイト運営、企画、ライター組織運営、事業開発支援などをされています。また、最近話題の瀬戸内地域でも「せとうち観光推進機構」のマーケティング・プラットフォームとして「瀬戸内Finder」の企画、運営、事業開発支援を手がけるなど、地域の事業者や自治体、在住者とのコラボレーションによるメディア開発と事業化を複数経験されてきました。
こうした事業に可能性と社会性を感じた倉重さんは、事業としてネットだけでなくリアルの観光資源開発なども同時に事業化したいと思いたち、会社との協議も経て、2016年3月に独立して事業推進することになり、地域共創カンパニー「ネイティブ株式会社」を創設しました。
ネイティブ株式会社のミッションは「国内外からの観光客を増やして地域を元気にする」ことです。
伸びしろがデカイ日本の観光市場
ASEAN地域の所得水準は上昇を続けています。訪日観光客数も2015年には当初2020年の目標にしていた2,000人に届く1,974万人を記録し、観光庁は2020年の目標を4,000万人に倍増しました。日本の観光市場規模は23.6兆円、GDPの5%ですが、諸外国平均の半分しかありません。観光客数1位のフランスは人口6,600万人に対して観光客数は8,473万人。国を支える一大産業となっています。日本は2,000万人でも世界15位程度で、海外からの観光客がもっと伸びてもおかしくありません。つまり日本は観光後進国です。
地域創生にはこれまでは工場誘致、学校誘致が中心でした。しかしもうそれは難しい時代で、今後は第一次産業と観光業を伸ばすしかありません。ところが国内旅行は減少傾向です。若い人が旅行をしなくなっています。伸びしろの大きいインバウンド需要とともに国内旅行へのテコ入れも必要になっています。観光は飲食、交通、物販など他産業への波及効果が高いです。しかしながら地域のデジタルマーケティングは遅れていて、観光のネットでの情報発信が進んでいません。
地域メディア開発の実績
「沖縄CLIP」は沖縄エリアのツーリズム、ローカルビジネス、グローバルコミュニケーションをリードする地域最大級メディアを目指し、Facebookページ、Webサイト、スマホアプリを運営しています。日本語、英語、中文(繁体字、簡体字)、韓国語の5ヶ国語で展開しています。ミッションは「沖縄の魅力を再発見し、それをグローバルに発信することで沖縄観光振興に貢献する」ことですが、実は夏は満室状態で、夏以外のシーズン客を増やすことが裏ミッションです。
「瀬戸内Finder」は瀬戸内7県で展開する、せとうちDMO(DMOとはデスティネーション・マネージメント・オーガニゼーションの略で当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと)のマーケティングプラットフォームです。日本人の瀬戸内への来訪意向は北海道、沖縄に比べると半分しかありません。そこで「国内外に瀬戸内の魅力ある情報を発信し、瀬戸内地域への来訪意向の向上をはかること」がミッションになります。来訪意向の上昇をKPIとして、サイト上で定期的にアンケートを取り確認をしています。
7つのポイント
こうした地域メディアの企画・運営を通して獲得したデジタル時代に地域の魅力を世界に広げる7つのポイントは次のとおりです。
- 居場所を知る
- 見られなきゃ意味がない
- ビジュアルにこだわる
- 中身にこだわる
- 境界線を超える
- 生態系を作る
- 本気で「世界一」を探す
1.ユーザーの居場所を知る
瀬戸内Fiderは、ユーザーの75%がスマホからのアクセスです。スマホでの利用時間は7割がアプリだといわれています。よく使われるアプリは、SNS(LINE、Facebook、Twitterなど)、ゲーム、動画、写真、天気、地図、ニュースです。ユーザーとの接点を拡大するには、スマートニュースやYahoo!ニュースなどニュースアプリに取り上げられることが重要です。
2.見られなきゃ意味がない
Facebookページもつくっただけでは見てもらえません。では見てもらうにはどうするか? それは広告を出すことです。広告を出してはじめて見てもらえる。Facebookは他のメディアより広告のコストパフォーマンスが良いし、良いコンテンツを出すと、SNSですので、ユーザーによってバズります。より話題になるコンテンツをつくり、投稿の仕方のノウハウでコストセーブしながら広告とのバランスをとって運営していくことが重要です。メディアは特性を活かして使い分けることも大事です。Facebookでは物販はなかなか難しい。自社サイトは長い記事もよく読んでもらえます。潜在層をSNSで集め、より濃い顧客をサイトに誘導し、旅行中はアプリを使ってもらうというようにします。
3.ビジュアルにこだわる
現地のライター・カメラマンをネットワークして、ビジュアルにこだわってコンテンツを作っています。特に良い動画が重要です。
4.中身にこだわる
秋元康さんが「記憶に残る“幕の内弁当”は無い。」と言っているように、総花的にあれもこれもと並べては記憶には残りません。記憶に残るインパクトを作らないとダメです。淡路島道の駅「うずしお」の事例では淡路島の名産のたまねぎをUFOキャッチャーの中に入れた「たまねぎキャッチャー」を設置しました。これが最初にTwitterで「淡路島狂っている…」という投稿が8,430リツイートされて火がつきました。PR活動も奏功して新聞などに取り上げられ、それをTV局が情報番組で取材して話題になり、現地も行列ができるようになりました。広告換算効果は2億円になると言われています。弱者の戦略としてランチェスター戦略というものがありますが、一点突破、ひとつに絞って唯一無二のインパクトを出すことが成功の要因です。
5.境界線を超える
人はよっぽど何か特別なものがなければひとつの市や町を目指して旅行することはありません。瀬戸内に旅行するときは、だいたい瀬戸内海のあたりを目指して旅行プランを考えます。ですから地域の情報発信は旅行者視点で考えないといけません。しかし観光協会などは市区町村がベースになっていてうまくいっていません。境界線を超えてエリアをまたいで情報発信しなければならないのです。
6.生態系を作る
地域でできるカッコイイ仕事をつくる。沖縄CLIPでは16人、瀬戸内Finderでは30人弱のフォトライターに発信の担い手になってもらい組織化しています。その多くは移住者で、地域移住者へ仕事を与える役割も担っているのです。オンライン会議やグループウェアを利用して時間と場所を越えて共創ワークを実現しています。観光に来ていただくことで地域の外からお金を取り入れて地域で回していく。地域共創の仕組み、生態系をつくることがネイティブ株式会社の仕事の本質なのです。
7.本気で「世界一」を探す
秋元康さんは「プロデュースとは0を1にすることではない。0.1を1にすることだ」と言っています。つまり0からつくることはそうそうできないが、ネタ(0.1)を探して1にすることはできる、だからネタを探せということです。地域の人に聞くと、何もないと言われますが、千葉のいすみ鉄道が「ここには、「なにもない」があります。」と逆手にとってさまざまなアイデアと企画で成功したり、島根県隠岐の海士町は「ないものはない」と言い切って、やはりさまざまなアイデアと企画で人口増加を達成しています。淡路島の「タマ泣き美人コンテスト」でもネット投票で優勝したのは地元のたまねぎ農家のおばあさんで、地元愛そのものが最高のコンテンツであることを証明しました。
デジタル時代の地域の魅力の広め方
7つのポイントをまとめると、
- お客さまは、スマホから。
- 見られる機会を作るべし。
- ビジュアルを重視すべし。
- 箱でなく中身重視で拡散を狙うべし。
- 自治体の境界線を超えるべし。
- 共創する生態系をつくるべし。
- 地域の“世界一”を見つけるべし。
ということです。